『よく晴れた明るい朝、一面の雪の原っぱにはひとつの足あともありません。AくんとBくんとCくんの3人がゲームをしていました。ひとりずつ歩いてだれが一番まっすぐな足あとを雪の上に残せるか、という競争です。

 まずAくんが歩きました。右足をふみ出すと、こんどは左足をそのすぐ前にくっつけてぴったりとならべ、またこんどは右足をくっつけてならべて、と下を向きながら一歩ずつとてもていねいに、ずいぶん時間をかけて原っぱの向こうにつきました。

 あれだけていねいに歩いたので、どのくらいまっすぐ歩けたかと後ろをふり向くと、あれれ? 思ったよりもぐにゃぐにゃにまがっていてがっかりしました。

 つぎにBくん。 Aくんとちがってまっすぐ前を向き、まず10歩だけ歩きました。そして立ち止まり後ろを見て、もし右にまがっていたら次はすこし左にむけてまた10歩あるきました。つぎに左だったらこんどは右へと、これをくりかえして向こう側につきました。すこしまがっていたけれどもAくんよりもずっとまっすぐに、そしてずっとずっと早く歩けました。

 つぎにCくんの番です。 遠い先に雪のつもった白い山が見えました。「あの山に向かっていけばまっすぐいける、けど…ちょっと遠いなあ」、そう思ったCくんは原っぱの向こうの大きな木に気づきました。 やがてCくんが歩きはじめました。 ほかの2人よりもとっても早く向こうにつきました。そして、その歩いたあとは…まるで定規ではかったようにまっすぐでした。

 Cくんはどうやって歩いたんだろう?

 じつはCくんは遠くの白い山と、手前の高い木とがぴったりとかさなって見えるようにして歩いた、それだけでした。

 隊長はいつも、君たちに「目標をもちなさい」と言っています。でも「なぜ、目標がたいせつなの?」ってあまり説明してこなかったのでこの話をしています。

 Aくんには目標がありました。 まっすぐに向こうまで歩くことです。でも一歩ずつはまっすぐだったけど、長く歩いているうちに少しずつまがってしまいました。

 Bくんはどうでしょう?君たちは学校で「反省会」ということをしていると思います。 Bくんがやったのは反省会でした。10歩だけ歩いて後ろを見てもしまちがっていたならば、それを反省して次の10歩が正しくなるようにしました。それをくりかえしたので、ずっとまっすぐに、そしてずっと早く目標に近づけました。

 ではCくんはどうだろう?Cくんはもっとずっと遠くに目標をもちました。あの白い山がそうです。でもその山はとても遠いので、その手前にもうひとつの「小さい」目標を作りました。あの大きな木がそれです。

 たいせつなのは、白い山と大きな木が、つまり大きな目標と、そのまえの小さな目標とがズレないようにして歩くこと、そうすれば何も迷うことなく、まっすぐに、そして一番早く目標に向かっていくことができます。隊長は君たちが今から何十年後、立派な大人になっていてほしいと思う。

 でもそれは遠くの白い山、ちょっと遠すぎる目標かもしれない。 でもその手前には、いくつも小さな目標があると思う。

 スポーツで身体をきたえたり、ともだちを作ったり、世の中に良いことをしたり、君たちが大切だと思うことをいくつも小さな目標にすればいい。でも本当に大切なのはそれが遠くの山とぴったりかさなっているようにして歩き出すこと。

 そうすればきみたちが道に迷うはずはないことを隊長は知っています。 ちょっとむずかしいけれども、隊長が言う目標の大切さがわかってくれればいいな、と思います。』

(2005年12月カブ隊冬キャンプ@土気・昭和の森公園、営火でのヤーン、より)

松岡 繁(元CS隊長)

ボーイスカウト東京文京第5団